温泉の街・伊香保を駆け抜けたチンチン電車が郷愁を誘う「峠の公園」
群馬県の名湯・伊香保温泉の街なかをかつてチンチン電車が走っていたのをご存じでしょうか?
伊香保温泉の入口にある「峠の公園」には、路面電車が廃止されてから個人的に受け継がれたチンチン電車の実物が展示されています。
峠の公園に展示されている伊香保チンチン電車
伊香保温泉入り口にある峠の公園
群馬県の誇る名湯・伊香保温泉街の入口近くにある「峠の公園」は、伊香保温泉再生事業のひとつとして2014年に作られました。
公園には、伊香保町憲章やチンチン電車の説明板、万葉歌碑、ベンチなどが整備されています。
伊香保公民館近くの三差路にあるこの公園に、かつて伊香保の街を走り抜けたチンチン電車の車両が展示されています。
公園の場所自体も、1910年に渋川新町~伊香保間で開業した「伊香保電気軌道」の軌道敷があった場所に隣接しています。
ノスタルジックなチンチン電車の実物が
そんなのどかな公園に設置されているチンチン電車がこちら。
どことなく江ノ電に似た、レトロでかわいらしい雰囲気です。
このチンチン電車は実際に伊香保電気軌道で走行していた車両で、同路線が廃業した後に東武鉄道から譲り受けていた個人が、渋川市に寄贈したものです。
台車(車輪)部分は伊香保電機軌道当時のものではありませんが、別の個人から渋川市に寄贈された、当時と同じ形式の台車「ブリル21E型」を展示しています。
チンチン電車の車体には、「伊香保渋川間」の表示と車両の番号を示す「27」の数字、そして伊香保電気軌道のマークが書かれています。
窓から電車の内側をのぞいてみると、運行していた当時を思わせる運転席や座席が見えます。
レトロで風情のあるチンチン電車は、伊香保の街でいったいどのように活躍していたのでしょうか?
チンチン電車が活躍した伊香保電気軌道の歴史
群馬県では、1890年(明治23年)に上毛馬車鉄道前橋線、1893年(明治26年)に群馬馬車鉄道高崎線、そして1910年(明治43年)には伊香保電気軌道伊香保線が開業し、路面電車3路線が県内3つの都市を結ぶ総延長48㎞もの距離を運行していました。
このうち、当時の有力者によって設立された伊香保電気軌道は、渋川から伊香保までをつなぐ登山電車。高低差は524mあり、1000m進む間に約571m上昇する急こう配区間もありました。
このため、沿線には迂回のためのカーブが87カ所も設けられ、スイッチバック方式で伊香保の山道を登っていきました。
下りは急こう配を生かし、電気を使わずに惰性とブレーキ制御で渋川の街なかまで運行していたといいます。
1927年(昭和2年)になると東武鉄道が伊香保電気軌道を含む3線を買収し、東武鉄道伊香保軌道線として営業を開始しました。
安い乗合バス(路線バス)が登場したことから1935年(昭和10年)には廃止の方針が決定したものの、1937年(昭和12年)の日中戦争勃発、それに続く太平洋戦争の開戦により需要が増大したため、廃止は撤回されます。
伊香保に疎開していた人々への食料や物資の輸送や、軍需工場で働く人の輸送など、伊香保軌道線は戦時輸送として活躍することとなりました。
戦後も多くの人の通勤や買い物などに利用されて市民の生活に根付き、1949年(昭和24年)には年間495万人もの人が利用していましたが、バスが整備され始めると経営は悪化の一途をたどり、ついに1956年(昭和31年)12月28日に廃線となってしまいました。
街の人々に愛され、惜しまれつつ廃線となった伊香保軌道線。その線路を走ったチンチン電車は、長い時を経て再び伊香保のシンボル的存在としてよみがえり、公園に展示されています。
チンチン電車の内部も公開
外観はもちろんのこと、チンチン電車の内部も見学できます。
曜日と時間指定なので、興味のある方はぜひ足を運んでみてください。
見学可能日:毎月第1、第3日曜日
時間:9:30~15:30
峠の公園施設情報、営業時間、アクセス
営業時間:常時
入園料:無料
定休日:なし
住所:群馬県渋川市伊香保町伊香保553-7
電話:0279-22-2873(渋川市産業観光部観光課観光施設係)
アクセス:関越自動車道渋川伊香保ICより約20分
駐車場:あり(隣接公民館の駐車場利用可能)
まとめ
チンチン電車がかわいらしい姿で伊香保の入口「峠の公園」にたたずみます。
戦前から戦後にかけて市民のために働いていた車体を個人が譲り受け、渋川市に寄贈したというエピソードも心温まります。電車の内部を観覧できる日もあります。
伊香保周辺観光とともに、伊香保電気軌道で活躍したチンチン電車の姿を眺めにぜひ足を運んでみてください。
子供から鉄道好きな人まで楽しめるスポットですよ。
※情報は取材当時のものです